はじめに
工場や製造業では、ゴールデンウィーク、夏季休暇、年末年始休暇を長めに設定する一方、祝日のある週や繁忙期の土曜日を出勤日にする会社カレンダーがよく見られます。
季節や受注状況によって忙しさが変わる会社では、毎週同じ労働時間を設定するより、年間の繁閑に合わせて勤務日と労働時間を配分した方が、実態に合う場合があります。
このような会社で検討されるのが、「1年単位の変形労働時間制」です。ただし、単に休日を入れ替えたり、忙しい週の勤務時間を長くしたりすればよいわけではありません。
労使協定、年間会社カレンダー、就業規則、労働基準監督署への届出を整え、法令上の上限を守って運用する必要があります。
この記事では、1年単位の変形労働時間制の基本から、年間会社カレンダーの作り方、残業代、36協定との関係まで、中小企業の実務を想定して解説します。
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1.1年単位の変形労働時間制とは
1か月を超え1年以内の期間で労働時間を平均する制度
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間を40時間以内に収めることを条件に、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超える所定労働時間を設定できる制度です。
名称は「1年単位」ですが、対象期間を必ず1年間にする必要はありません。
3か月、6か月、10か月など、1か月を超え1年以内の期間で設定できます。
ただし、実務では年間会社カレンダーと連動させるため、1年間を対象期間とする会社が多くなっています。
なお、商業、保健衛生業、接客娯楽業などの一部の小規模事業場に認められる週44時間の特例は、1年単位の変形労働時間制には適用されません。対象期間を平均して週40時間以内に収める必要があります。
36協定とは目的が異なる
1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ所定労働時間を年間の繁閑に合わせて配分する制度です。一方、36協定は、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働を行わせるための協定です。
1年単位の変形労働時間制を導入しても、決められた所定労働時間を超えて働かせる場合には、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いが必要になります。
両者は代替関係ではなく、必要に応じて併用する制度です。
1か月単位との違い
| 項目 | 1年単位 | 1か月単位 |
| 対象期間 | 1か月超1年以内 | 1か月以内 |
| 主な繁閑 | 季節・年間の繁閑 | 月内・シフトの繁閑 |
| 主な資料 | 年間会社カレンダー | 月間シフト表 |
| 労使協定 | 必須 | 就業規則等による導入も可能 |
| 1日・1週の上限 | 原則1日10時間・1週52時間 | 同じ形の一律上限はない |
| 労働日数の上限 | 対象期間3か月超では原則年280日 | 同じ形の一律上限はない |
向いている会社の例
- 季節による繁閑がある製造業
- 工期や受注時期によって繁閑がある建設業
- 観光シーズンの影響を受ける観光業・宿泊業
- 夏期講習や受験期が忙しい学習塾
- 年間の生産計画や取引先の稼働日に合わせて会社カレンダーを作成できる製造業
たとえば、繁忙期の土曜日を出勤日とし、閑散期の土曜日を休日にすることで、年間の業務量に合わせて勤務日を配分する会社などで利用されます。
ゴールデンウィークや夏季休暇、年末年始休暇を長めに設定する一方で、繁忙期や祝日のある週の土曜日を所定労働日とする会社カレンダーを組む製造業などが典型例です。
2.導入するための要件
(1)対象期間と起算日を決める
対象期間は1か月を超え1年以内で設定し、その起算日を明確にします。
4月1日から翌年3月31日まで、1月1日から12月31日までなど、会社の事業年度や従来の年間カレンダーに合わせて設定することが一般的です。
(2)対象労働者の範囲を明確にする
制度の対象者は、全従業員である必要はありません。「製造部門の従業員」「本社工場に勤務する従業員」など、部署や職種ごとに定めることもできます。
パート・アルバイトを対象に含めることも可能ですが、労働条件通知書、就業規則、実際の勤務表の内容を一致させる必要があります。
(3)労使協定で必要事項を定める
過半数労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結します。
協定では、対象労働者の範囲、対象期間と起算日、特定期間、労働日と各日の労働時間、協定の有効期間などを定めます。
過半数代表者は、1年単位の変形労働時間制に関する協定を締結する代表者であることを明らかにしたうえで、投票、挙手、話し合いなど、労働者の意思に基づく方法で選出します。会社が一方的に指名することはできません。
※10.参考(就業規則規定例、労使協定例)に労使協定例を記載しています。
(4)就業規則を整備する
労使協定を締結して協定届を提出するだけでなく、就業規則にも1年単位の変形労働時間制を適用する旨、対象期間、始業・終業時刻、休日などを定めます。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更した場合は、変更届の提出も必要です。
※10.参考(就業規則規定例、労使協定例)に就業規則規定例を記載しています。
(5)協定届を労基署へ届け出る
1年単位の変形労働時間制に関する協定届(様式第4号)を、対象期間が始まる前に、事業場を管轄する労働基準監督署へ届け出ます。
常時使用する労働者が10人未満の事業場であっても、1年単位の協定届は必要です。
3.対象期間と特定期間
対象期間の考え方
対象期間とは、変形労働時間制の適用対象となる期間のことで、この期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えないようにする必要があります。
1年単位の場合、対象期間は1か月を超え1年以内で設定します。
起算日(対象期間の開始日)を協定で明確に定め、「毎年4月1日から翌年3月31日まで」のように具体的に記載するのが一般的です。
特定期間とは
特定期間とは、対象期間のうち特に業務が繁忙な期間として、労使協定で指定する期間です。
特定期間を設定すると、通常であれば6日が限度とされている連続労働日数の制限が緩和され、最大12日まで連続して勤務させることが可能になります(1週間に1日の休日が確保できる日数が上限)。
特定期間は、たとえば「1日9時間や1週48時間を超える労働時間を設定している期間」「連続労働日数が6日を超える期間」など、対象期間の中でもとくに業務量が集中する時期に限定して設定するものです。
対象期間の相当部分を特定期間として指定することは、制度の趣旨に反するため認められません。あくまで真に繁忙な一部の期間に限定して設定する必要があります。
4.労働時間・労働日数の上限規制
1年単位の変形労働時間制には、1か月単位よりも細かな上限規制が設けられています。対象期間が長いために、従業員の負担が過度にならないよう配慮されたものです。
| 労働日数の限度 | 対象期間が1年の場合→280日
対象期間が3か月を超え1年未満である場合 →280日×対象期間の歴日数/365日(小数点以下切り捨て) |
| 1日及び1週間の労働時間の限度 | 1日→10時間
1週間→52時間 導入の要件(対象期間が3か月を超える場合)
|
| 連続して労働させる日数の限度 | 連続労働日→6日
(特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)における連続労働日数は、労使協定の定めがある場合には、1週間に1日の休日が確保できる日数。最長12日) |
また、対象期間における総労働時間の枠は、「対象期間の暦日数 ÷ 7 × 40」という式で算出します。
対象期間が365日であれば365 ÷ 7 × 40 = 約2085.7時間が総枠の目安になります。366日の場合は約2,091.4時間です。
この総枠を超えないように、年間所定労働時間がこの総枠を超えないように設定します。
1週間の平均労働時間を40時間とするA事業所の例
1日8時間の所定労働時間の場合
月2回の週休2日制に加え、国民の祝日、年末年始の休暇などを休日とすることにより、年間休日を105日確保し、1週間当たりの平均労働時間を40時間以下とする
(1) 365日-105日=260日(年間労働日)
(2) 260日×8時間=2,080時間(年間労働時間)
(3) 2,080時間×7日/365日≒39.89時間(1週間当たりの労働時間)<40時間
1週間当たりの労働時間は39.89時間(時計時に直すと39時間53分)のため、40時間をクリアしています。
5.対象労働者の範囲
1年単位の変形労働時間制は、労使協定で定めた対象労働者の範囲に適用されます。
全従業員を対象とすることも、特定の部署・職種に限定することも可能です。
ただし、次のような労働者については、適用に制限・配慮が必要となります。
- 満18歳未満の年少者:原則として1年単位の変形労働時間制の対象にできません(1週48時間・1日8時間以内であれば例外的に一部適用可能な場合があります)
- 妊産婦:本人から請求があった場合は、1週40時間・1日8時間の範囲を超えて労働させることができないため、事実上1年単位の変形労働時間制の対象から外れます
- 育児や介護を行う労働者、職業訓練・教育を受ける労働者など:これらの労働者が育児、介護、職業訓練・教育などに必要な時間を確保できるよう、勤務時間等について配慮する必要があります。
6.導入の手続きの流れ
- 労使協定の締結:労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は過半数代表者と書面で労使協定を締結します。協定には、対象労働者の範囲、対象期間及び起算日、特定期間、労働日及び労働日ごとの労働時間、労使協定の有効期間を定める必要があります。
- 年間カレンダー(勤務カレンダー)の作成:対象期間中のすべての労働日と、各労働日の所定労働時間を、対象期間が始まる前に具体的に特定します。
- 就業規則への規定:1年単位の変形労働時間制を採用する旨を就業規則に記載します。年間カレンダーを就業規則の付属規定として扱う場合は、対象期間ごとに改定が必要になります。
- 従業員への周知:協定内容や年間カレンダーについて、対象となる従業員に周知し、理解を得ます。
- 労働基準監督署への届出:「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」に、労使協定書と年間カレンダーを添付し、所轄労働基準監督署に届け出ます。
年間カレンダーは途中で自由に変更できない
1年単位の変形労働時間制は、労働日と各日の労働時間を事前に特定することを前提としています。そのため、業務量の見込み違いなどを理由に、会社の都合で年間カレンダーを自由に変更することは原則できません。
1年先のシフトを全部決められない場合
1年先までのすべての労働日・労働時間をあらかじめ確定することが難しい場合は、対象期間を1か月以上の期間に区分する方法も認められています。
この場合、最初の期間は労働日と各日の労働時間を具体的に定め、それ以降の期間については各期間の労働日数と総労働時間を定めたうえで、各期間の初日の30日前までに、労働者の過半数代表者の同意を得て、具体的な労働日と労働時間を書面で定める必要があります。
7. 残業代(時間外労働)の計算方法
1年単位の変形労働時間制における時間外労働は、日・週・対象期間全体の3段階で判定します。
- 1日については、労使協定で8時間を超える所定労働時間を定めた日はその時間を、8時間以内の所定労働時間を定めた日は8時間を超えて労働した時間が時間外労働になります。
- 1週については、労使協定で40時間(特例措置対象事業場でも1年単位では44時間の特例は使えず、常に40時間)を超える所定労働時間を定めた週はその時間を、40時間以内の所定労働時間を定めた週は40時間を超えて労働した時間が時間外労働になります(1日で時間外労働となった時間を除きます)。
- 対象期間全体については、対象期間の労働時間の総枠(暦日数÷7×40)を超えて労働した時間が時間外労働になります(1日・1週間で時間外労働となった時間を除きます)。
たとえば、ある日の所定労働時間を9時間と適法に定めていたとしても、その日に10時間働かせれば、所定労働時間を1時間超えます。あらかじめ定めた所定労働時間を超えているため、その1時間は時間外労働として扱い、割増賃金を支払う必要があります。
8. 36協定との関係(上限時間の違いに注意)
1年単位の変形労働時間制で定めた所定労働時間を超えて働かせる場合には、変形労働時間制の協定とは別に、36協定の締結・届出が必要です。
1年単位の変形労働時間制を導入したからといって、36協定が不要になるわけではありません。
ここで特に注意したいのが、36協定における時間外労働の限度時間です。
通常の36協定では、時間外労働の限度時間は月45時間・年360時間ですが、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用している場合には、この限度時間が月42時間・年320時間に厳格化されます。
1年単位の変形労働時間制は、そもそも繁忙期・閑散期を通じて計画的に労働時間を配分する制度であるため、その前提のうえでさらに時間外労働をさせる場合には、より厳しい上限が適用される、という位置づけです。
特別条項付き36協定を締結する場合であっても、この点は変わりません。
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9.途中入社・途中退職者は清算が必要な場合がある
対象期間の途中で入社・退職した人、配置転換などにより対象期間の一部だけ制度が適用された人については、実際に制度が適用された期間を平均して週40時間を超えていないか確認します。
週40時間を超える時間があり、すでに別の時間外労働として割増賃金を支払った時間を除いて未清算の時間がある場合には、追加の割増賃金が必要になります。特に退職者の最終給与で見落としやすい論点です。
10.参考(就業規則規定例、労使協定例)
就業規則規定例
第○条 1年単位の変形労働時間制の労働日ごとの所定労働時間は8時間とし、始業・終業の時刻および休憩時間は次のとおりとする。
- 始業時刻:午前8時 終業時刻:午後5時
休憩時間:正午から午後1時
(休日)
第○条 休日は、1週間の労働時間が1年を平均して40時間以下となるよう労使協定で定める年間カレンダーによるものとする。
労使協定の簡易的な規定例
第1条 令和○○年1月1日から令和○○年12月31日までの1年間の勤務時間については本協定の定めるところによるものとする。
第2条 前条の期間中における各日の所定労働時間は8時間、始業の時刻は午前8時、終業の時刻は午後5時とする。なお、休憩時間は正午から午後1時までとする。
第3条 第1条の期間中における休日は、毎日曜日、別に定める休日表により休日と定める土曜日、国民の祝祭日(祝日が日曜日と重複するときは翌月曜日)、年末・年始休暇、ゴールデンウイーク休暇、お盆休暇および創立記念日とし、1週間の所定労働時間が1年を平均して40時間以下となるように労使協定で定める別紙年間カレンダーのとおりとする。
第4条 第2条に定める所定労働時間を超えて労働させた場合は、賃金規定第○条に基づき時間外手当を支払う。
第5条 妊娠中または産後1年以内の女性従業員が請求した場合は、本協定はその女性従業員には適用しない。
第6条 育児を行う者、老人などの介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する従業員に対する本協定の適用に当たっては、会社は従業員代表と協議するものとする。
11. まとめ
1年単位の変形労働時間制は、季節や年間計画によって繁閑差が大きい会社にとって、年間の総労働時間を適正化できる有用な制度です。
ただし、1か月単位に比べて上限規制が細かく、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必須である点、年間カレンダーの作成と事後変更が原則できない点など、押さえるべきポイントが多くあります。
実際に労働基準監督署へ提出する協定届は、対象期間・特定期間・対象期間中の1週間の平均労働時間数・総労働日数・最長日の労働時間・最長週の労働時間・連続労働日数の限度など、記載すべき項目が多岐にわたります。
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参考資料
- 厚生労働省:変形労働時間制の概要
- 大阪労働局:よくあるご質問(労働時間・休日)

