社労士診断認証制度とは?「人を大切にする会社」を見える化する経営労務診断
「うちの会社は、従業員を大切にしている」——そう考えている経営者の方は多いと思います。
では、そのことを求職者や取引先など、会社の外にいる人にどのように伝えればよいでしょうか。
決算書を見れば、売上や利益、財務状況はある程度分かります。しかし、就業規則が適切に整備されているか、労働時間が正しく管理されているか、従業員が安心して働ける環境づくりに取り組んでいるかといった「労務の健全性」は、決算書からは分かりません。
そこで活用できるのが、全国社会保険労務士会連合会が運営する「社労士診断認証制度」です。
社労士診断認証制度は、労務コンプライアンスや職場環境改善に取り組む企業を支援し、その取り組みを認証マークによって「見える化」する制度です。
認証マークを取得することもメリットですが、私はそれ以上に、自社の労務管理を一度立ち止まって点検し、問題があれば早めに改善する機会になることに大きな価値があると考えています。
人間が定期的に健康診断を受けるように、会社にも「労務管理の健康診断」が必要です。
この記事では、社労士診断認証制度の仕組みやメリット、経営労務診断で確認する内容、認証までの流れについて、経営者の方に分かりやすく解説します。
社労士診断認証制度とは?
社労士診断認証制度は、全国社会保険労務士会連合会が、労務コンプライアンスや働き方改革に取り組む企業を支援するために実施している制度です。
企業の労務管理や職場環境改善への取り組みについて、企業自身による宣言や社会保険労務士による診断を行い、その段階に応じて認証マークが付与されます。
制度の特徴は、これまで外部から見えにくかった「労務管理の状況」を見える形にできることです。
企業の価値は、売上や利益だけで決まるものではありません。人材不足が深刻になる中、従業員が安心して働ける会社であること、法令を守り適切な労務管理を行っていることも、企業経営の重要な要素になっています。
社労士診断認証制度は、財務諸表には表れないこうした部分を確認し、職場環境改善への取り組みを社内外に示すために活用できる制度です。
ただし、認証マークは会社のすべてを保証するものではありません。大切なのは、認証取得そのものを目的とするのではなく、診断をきっかけとして自社の労務管理を見直し、より良い会社づくりにつなげることです。
社労士診断認証制度には3つの認証があります
① 職場環境改善宣言企業
最初のステップが「職場環境改善宣言企業」です。
企業が確認シートに沿って自社の状況を確認し、職場環境の改善に取り組むことを宣言します。
企業自身がWEBから申請することも、社会保険労務士に依頼して手続きを行うこともできます。
いきなり専門家による詳細な診断を受けるのではなく、まず自社の現状を確認する入口として利用できます。
【取得の流れ】
社労士に依頼し、確認シートの記入や申請手続きを代行してもらうこともできます
- 企業が自ら「職場環境改善宣言企業」確認シートをダウンロード
- チェックする
- 登録専用フォームへの入力送信
- 事務局の認証手続き
- 認証マークの発行
全国社会保険労務士連合会|職場環境改善宣言のセルフチェック登録
② 経営労務診断実施企業
「①職場環境改善宣言」を行ったうえで、「経営労務診断基準」に基づき所定の項目について社会保険労務士の確認を受けた企業には、「経営労務診断実施企業」の認証マークが付与されます。
ここからは企業だけのセルフチェックではなく、労務管理の専門家である社会保険労務士が確認します。
自社では「これで大丈夫」と思っていた部分について、第三者の専門的な視点から確認できることが大きな意味を持ちます。
③ 経営労務診断適合企業
さらに、経営労務診断基準に基づく必須項目のすべてが適正と認められた企業には、「経営労務診断適合企業」の認証マークが付与されます。
経営労務診断適合企業については、制度の企業情報サイトに認証マークだけでなく各項目の調査結果も掲載されます。
つまり、制度は「宣言する」→「社労士の診断を受ける」→「必須項目の適合を目指す」という段階的な仕組みになっています。
最初から完璧な会社である必要はありません。むしろ、診断によって課題を発見し、一つずつ改善していくことに意味があります。
経営労務診断では何をチェックする?
経営労務診断では、全国社会保険労務士会連合会が定める「経営労務診断基準」に基づき、社会保険労務士が会社の労務管理の状況を確認します。
※診断内容については、全国社会保険労務士会連合会の「社労士診断認証制度」公式サイトを参考にしています。
主な確認項目は次のとおりです。
① 労務管理に関する規程
就業規則、労働条件・賃金に関する定め、育児・介護休業、ハラスメント対応方針などが適切に整備されているかを確認します。
② 労務管理の実際の運用
労働時間・休憩・休日の管理、36協定などの労使協定、年次有給休暇の付与・管理、健康診断、安全衛生管理、ハラスメント相談体制などを確認します。
例えば労働時間については、規程だけでなく、直近の勤怠記録などから実際の管理状況も確認します。
③ 法定帳簿などの整備
労働者名簿、賃金台帳、勤務表・タイムカード、年次有給休暇管理簿などが適切に作成・保管されているかを確認します。
④ 労働保険・社会保険
労災保険・雇用保険、健康保険・厚生年金保険について、必要な加入手続きが行われているかを確認します。
⑤ 組織体制・数値情報
任意項目として、組織図、職務分掌規程、職務権限規程などの組織体制についても確認します。また、従業員数や労働時間など、労務管理に関する数値情報も確認します。
このように経営労務診断は、単に「就業規則があるか」をチェックするものではありません。
規程が整っているか、実際の運用に問題がないか、必要な帳簿や手続きが整っているかまで幅広く確認します。
経営者自身では問題ないと思っていても、専門家が確認することで改善点が見つかることがあります。
社労士診断認証制度に取り組む5つのメリット
① 労務管理上の問題を早期に発見できる
最も大きなメリットは、自社では気付かなかった問題を早い段階で発見できることです。
労務問題は、トラブルが起きてから対応すると会社の負担が大きくなります。未払い残業代、解雇、ハラスメントなどの問題が発生すれば、金銭的負担だけでなく、経営者や担当者が対応に費やす時間も必要になります。
問題が起きる前に確認し、必要な改善を行うことは、経営上のリスク管理でもあります。
② 法改正への対応漏れを確認できる
労働関係法令は頻繁に改正されています。経営者が本業を行いながら、すべての法改正を把握するのは容易ではありません。
一度作った就業規則や雇用関係の書式について、定期的に専門家のチェックを受けることには意味があります。
③ 従業員が安心して働ける職場づくりにつながる
労働条件が明確で、労働時間や有給休暇が適切に管理されている会社は、従業員にとっても安心して働きやすい職場です。
労務管理を整えることは、単なる法令対応ではありません。従業員の定着や会社への信頼にもつながります。
④ 採用活動で会社の取り組みを伝えられる
現在、多くの中小企業が採用難に直面しています。
求職者から見れば、求人票や会社ホームページだけで、その会社が安心して働ける会社なのかを判断することは簡単ではありません。
認証マークや制度の企業情報サイトへの掲載は、自社が労務コンプライアンスや職場環境改善に取り組んでいることを伝える一つの材料になります。[3]
⑤ 社外への信頼性向上につなげられる
適切な労務管理は、従業員だけの問題ではありません。
取引先、金融機関、求職者などにとっても、会社が人をどのように雇用し、どのような職場づくりをしているかは企業を見る一つの要素です。
財務面だけでなく、人に関する管理にも取り組んでいることを「見える化」できる点は、この制度の特徴です。
まずは自社の労務管理をチェックしてみませんか?
「社労士診断認証制度」と聞くと、認証マークを取得することに目が向きがちです。
しかし、認証を取得することだけが目的ではありません。
大切なのは、「現在の会社の労務管理を確認する → 問題点があれば早めに発見する → 必要なところを改善する → 従業員が安心して働ける会社にする」という取り組みです。
そして、きちんと整備した結果として「経営労務診断適合企業」の認証を取得できれば、自社の取り組みを従業員や求職者、取引先などにも伝えることができます。
これまで特に労務トラブルが起きていない会社でも、一度専門家によるチェックを受けてみると、思わぬ改善点が見つかることがあります。
人間が定期的に健康診断を受けるように、会社についても定期的に「労務管理の健康診断」をしてみませんか。
久野事務所では、社会保険労務士・中小企業診断士として、経営と労務の両面から中小企業の労務管理を確認し、問題点の改善からその後の職場づくりまで支援します。
「自社の労務管理が現在の法律に合っているか確認したい」「就業規則を何年も見直していないので心配」「経営労務診断適合企業を目指したい」という経営者の方は、お気軽にご相談ください。
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