1. はじめに|パートで働く家族を扶養に入れているご家庭に関係する制度が変わります
2026年(令和8年)4月1日より、健康保険の「被扶養者認定」における年間収入の判定方法が大きく変わりました。
この改正は、パートやアルバイトで働く配偶者や家族を社会保険の扶養に入れている方々、そして従業員の扶養手続きを担う人事・総務担当者に直接関係する重要な変更です。
令和8年5月1日に日本年金機構からも事業所向けの案内が公表されました。
日本年金機構の新しい考え方は、「実際にいくら稼いだか」ではなく「労働契約上どのくらい稼ぐ予定か」をベースに扶養かどうかを判断するというものです。これにより、一時的な残業収入で扶養を外れるリスクが大幅に軽減されることになります。
(厚生労働省通知)労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて
(日本年金機構)労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて
2. そもそも「被扶養者の認定」とは?今さら聞けない基本のおさらい
健康保険の「被扶養者」とは、会社員などの健康保険加入者(被保険者)に扶養されている家族のことです。被扶養者として認定されると、自分で保険料を支払わなくても健康保険の給付を受けることができます。
被扶養者として認定されるためには、いくつかの条件がありますが、主な要件のひとつが「年間収入が130万円未満であること」です。ただし、年齢や状況によって基準が異なります。
| 対象者 | 収入基準 | 月額換算 |
| 一般の方 | 130万円未満 | 108,333円以下 |
| 60歳以上または一定の障害者 | 180万円未満 | 150,000円以下 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者を除く) | 150万円未満 | 125,000円以下 |
3. これまでの問題点|「残業が多い月があるだけで扶養を外れるリスク」があった
改正前の判定方法では、「過去の給与明細(実績)」や「将来の収入の見込み」を総合的に判断して被扶養者かどうかを決めていました。この方法には大きな問題点がありました。
- 繁忙期に残業が増えた月があると、年収ベースで換算したときに130万円を超えてしまうと判定されるリスクがあった
- 扶養に入れるかどうかが事前に読みにくく、働く側が「扶養を外れないように残業を断る」といった就業調整につながっていた
- 担当者によって判断がばらつきやすく、手続きが煩雑だった
こうした「扶養の壁」問題を解消するため、今回の制度改正が行われることになりました。
4. 2026年4月からどう変わる?「実際に稼いだ額」より「契約上の収入」で判断へ
令和8年4月1日以降、被扶養者認定における年間収入の判定は、「労働条件通知書」などの労働契約内容がわかる書類に記載された賃金をもとに行われます。
具体的には、以下のように変わります。
| 改正前(〜2026年3月) | 改正後(2026年4月〜) |
| 過去の給与実績・将来の見込みを総合判断 | 労働条件通知書に基づく収入見込みで判断 |
| 残業代・時間外賃金も収入に含む | 契約上あらかじめ見込まれていない残業代・時間外賃金は収入に含まない |
| 予見可能性が低く、就業調整が発生しやすい | 契約段階で扶養に入れるか判断できる |
💡 ポイント:「今月残業が多かったから扶養を外れるかも…」という不安がなくなります
5. 具体例で理解する|改正前と改正後でこんなに違う
【例】時給1,200円、週4日・1日5時間勤務のパート従業員の場合
- 所定労働に基づく年間収入:1,200円 × 5時間 × 4日 × 52週 ≒ 約124万8,000円(130万円未満)
- 改正前:残業が月に数回あると実績ベースで130万円超と判定されるリスクがあった
- 改正後:労働条件通知書上の所定労働時間で計算した見込み額(約124万8,000円)が130万円未満のため、残業があっても原則として扶養として認定される
💡 ポイント:ただし、認定後に臨時収入を得た場合でも「社会通念上妥当な範囲」であれば、扶養の取消しは不要です
6. 「労働条件通知書」が重要書類に|収入に含まれるもの・含まれないもの
今回の改正で、被扶養者認定の申請時に「労働条件通知書」等の提出が必要になります。収入の範囲についても整理しておきましょう。
収入に含まれるもの(基本給+以下の手当)
- 役職手当・職務手当
- 住宅手当
- 通勤手当(所得税で非課税でも社会保険上は含む)
- 家族手当
- 賞与(労働契約で賞与額が明確に規定されている場合)
- 固定残業代(契約書に明記されている場合)
収入に含まれないもの
- 時間外労働(残業)に対する賃金(契約書に明記がないもの)
- 一時的・臨時的な収入
💡 ポイント:通勤手当は所得税では非課税ですが、社会保険の扶養判定では収入に含まれる点にご注意ください
7. この新ルールが使えないケースに注意
労働契約ベースの判定方法は、すべての場合に使えるわけではありません。以下のケースは従来どおりの方法で判定されます。
シフト制の場合はどうなるの?
「シフト制による」など労働時間の記載が不明確な場合は、契約書から年間収入を計算できないため、この新しい方法は使えません。従来どおり、給与明細や収入証明書による判定となります。
契約期間が短い場合は?
被扶養者になった日から起算して、通知書等の契約期間が1年未満の場合は、この方法での認定ができません。
その他、使えないケース
- 手当の金額が「通勤手当有」などと記載されていて金額が不明な場合
- 給与収入以外に年金収入・事業収入等がある場合(収入証明書等で従来どおり判定)
8. 扶養に入る手続きで何が必要になるか|添付書類と申立書の確認
2026年4月1日以降に被扶養者の認定を行う際に必要な書類は以下のとおりです。
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 労働条件通知書(または雇用契約書)等の労働契約内容がわかる書類
- 「給与収入のみである」旨の申立書(異動届の申立書欄への記入、または別紙添付)
なお、労働条件の変更・契約更新があった場合には、その都度、新しい労働条件通知書の提出が必要になります。人事・総務担当者は、従業員へ事前に周知しておくことが大切です。
9. 認定後に収入が増えてしまったら?慌てないための対処法
扶養として認定された後に、想定外の残業や臨時収入が発生し、結果として年間収入が130万円以上になってしまった場合はどうなるでしょうか。
この場合、臨時収入が「社会通念上妥当な範囲」に留まるときは、扶養の取消し手続きは不要です。ただし、その状況が繰り返されたり、恒常的に契約外の収入が発生している場合は、改めて判定が必要になります。
また、従来から「年収の壁・支援強化パッケージ」により、事業主が一時的な収入増加であることを証明することで、扶養継続が認められる取扱いも設けられています。
💡 ポイント:一時的な収入増加で慌てて扶養の脱退手続きをする必要はありません。まず人事・総務担当者に相談しましょう
10. まとめ|この改正で「扶養の壁」はどう変わるか
今回の改正のポイントを改めて整理します。
- 2026年4月1日以降、被扶養者の年間収入判定は「労働条件通知書ベース」に変わる
- 残業代・時間外手当は原則として収入に含まれなくなる
- 認定時に「労働条件通知書」と「給与収入のみ」の申立書が必要になる
- シフト制・短期契約など、新方式が使えないケースもあるため注意が必要
- 認定後の臨時収入は、社会通念上妥当な範囲であれば扶養取消しは不要
この改正により、扶養の範囲内で働きたい方が「残業をしたら扶養を外れてしまうかも」と不安になる状況が改善されることが期待されます。一方で、手続きには新たな書類が必要になるため、人事・総務担当者は早めに社内体制を整えておきましょう。
参考:日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」(令和8年5月)
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