カスハラ義務化まであと4か月。 今から間に合う「義務化対応」完全ロードマップ

2026年10月から、企業に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化されます。
「まだ4か月ある」と感じるかもしれません。

しかし、実際には就業規則の改定、相談体制の整備、管理職教育、現場マニュアルの作成などを考えると、決して余裕がある状況ではありません。

特に中小企業では、これまで「お客様第一」の考え方のもと、従業員が理不尽な要求にも耐えながら対応してきたケースが少なくありません。しかし、人手不足が深刻化する中で、従業員を守れない会社は、採用でも定着でも選ばれにくくなっています。

カスハラ対策は、単なるクレーム対応ではなく、「従業員が安心して働ける職場をつくるための労務管理」の問題です。
この記事では、2026年10月の法施行までに、中小企業が準備しておきたい実務対応について、就業規則・運用体制・現場対応の観点から解説します。

 

そもそも今回の法改正で何が変わるの?

改正労働施策総合推進法とは

2025年7月に「労働施策総合推進法」が改正されました。これにより、これまでパワハラ・セクハラ・マタハラに義務化されてきたハラスメント防止対策の枠組みに、新たにカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が加わりました。

施行日は2026年10月1日。 すべての事業主に対策が義務化。

中小企業を含む全企業が対象。適用猶予措置はありません。

厚生労働省は2026年2月26日に具体的な指針を公表しており、企業が取り組む内容の輪郭はすでにはっきりしています。

厚生労働省HP職場におけるハラスメントの防止のために

(カスタマーハラスメント防止指針)

事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)[248KB]

カスハラの法律上の定義(3要素)

改正法では、カスハラを以下の3要素すべてを満たす言動と定義しています。

  1. 職場において行われる顧客・取引先・施設利用者など、事業に関係する者の言動であること
  2. 労働者が従事する業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  3. 当該言動により、労働者の就業環境が害されること

典型例:

  • 欠陥のない商品の交換を繰り返し要求する
  • 土下座を強要する
  • 長時間にわたって従業員を叱責し続ける
  • 暴言・脅迫・SNSへの無断投稿など

一方、事実に基づく冷静なクレームは正当な申入れであり、カスハラには該当しません。

「推奨」から「義務」へ——パワハラと同等の位置づけに

これまでカスハラ対策は「望ましい取り組み」にとどまっていました。

今回の改正で、それが企業の法的責務(措置義務)へと変わります。

対応内容はパワハラ防止措置と概ね同等であり、すでにパワハラ対策を整備している企業はその延長線上で取り組めます。

義務違反時のペナルティ

義務違反の事業主には以下の行政措置が科されます。

  • 厚生労働大臣による報告徴求・助言・指導・勧告
  • 勧告に従わない場合の企業名の公表

企業名公表は社会的信用に直結します。

また、従業員がカスハラによって精神疾患などを発症した場合、企業は労働契約法上の「安全配慮義務」違反として、民事上の損害賠償責任も問われるリスクがあります。

 

企業が義務として講じなければならない4つの措置

厚生労働省が2026年2月に公表した指針では、企業が義務として取り組むべき措置が具体的に示されました。以下の4点が対応の柱となります。

① 方針の明確化・周知啓発

「カスハラを許容しない」という会社の姿勢を明確に文書化し、全従業員に周知します。

社内報・イントラネット・朝礼・研修などを通じて繰り返し伝えることが重要です。

また、ホームページや店舗内への掲示など対外的な宣言も有効で、それだけで一定の抑止効果が生まれます。

② 相談体制の整備

カスハラ被害を受けた従業員が、すぐに相談できる窓口を設置します。

既存のハラスメント相談窓口に統合する形でも構いません。

相談者のプライバシーを守ること、相談を理由に不利益な取り扱いをしない旨を明示することが重要です。

③ 発生後の迅速・適切な対応

カスハラが発生した際の対応フローを事前に整備しておくことが求められます。

事実確認、被害者へのメンタルケア、必要に応じた配置転換や業務調整、再発防止策の検討

これらを組織として一貫して行う体制が必要です。

④ 抑止のための措置

悪質なカスハラに対しては、毅然とした対応を組織として取れる体制が必要です。

通話録音・防犯カメラの設置(来客への周知が前提)、クレーム対応時の複数対応ルール、警察や法的措置への連携フローなどが具体的な措置として挙げられます。

「記録が残る環境」は、従業員にとっての最大の安心感にもなります。

 

準備が遅れると怖い——対応しないことの3つのリスク

「法律が施行されてから対応すればいい」と考えている経営者・人事担当者に知っておいてほしいことがあります。カスハラ対策を後回しにすることは、すでに今この瞬間から3つのリスクを抱え続けることを意味します。

① 安全配慮義務違反・損害賠償リスク

労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、カスハラ法施行前から存在しています。カスハラによって従業員がメンタル不調をきたし休職・退職に至った場合、企業が適切な対策を取っていなければ安全配慮義務違反として損害賠償請求が認められた裁判例がすでに存在します。

また、精神疾患の労災認定に用いられる「心理的負荷評価表」には、カスハラに相当する「顧客や取引先から著しい迷惑行為を受けた」という項目がすでに追加されています。

② 採用・定着リスク

厚生労働省の調査では、直近3年間にカスハラを受けたことがあると回答した企業が約15〜20%にのぼります。カスハラを放置する職場は「守ってくれない会社」としてSNSで瞬時に拡散します。人手不足が深刻な今、カスハラ対策は採用競争力に直結する経営課題です。特に若い世代ほど、自分を守ってくれない職場を素早く離れる傾向があります。

③ レピュテーション・ブランドリスク

義務に違反していた事実が公表されれば、取引先・顧客・求職者からの信頼を一気に失います。特に行政による企業名公表は、一度起きると検索エンジンで長く残り続けます。対策は、こうした経営リスクを未然に防ぐための「保険」です。

 

今から間に合う!4ヶ月ロードマップ

4ヶ月は短いようで、正しい順番で動けば十分に整えられます。以下のステップを参考に、今日から計画を立ててみてください。

STEP 1(今すぐ〜1ヶ月以内):実態把握と基本方針の策定・対外宣言

  • 従業員アンケートや管理職ヒアリングで、被害の件数・内容・部署を把握する
  • 経営トップが「当社はカスハラを許容しない」という基本方針を文書化する
  • ホームページや店舗内に「カスタマーハラスメントはお断りします」と掲示する

対外宣言は見た目よりも効果があります。「ここはクレームが通らない」という認識を持たせることで、件数自体が減ることも多いです。

STEP 2(〜2ヶ月):就業規則・社内規程の改定

  • カスハラの定義と具体例(正当なクレームとの線引きを明示)
  • 従業員の保護方針と会社の対応姿勢
  • 現場が即座に判断できる対応基準(例:「暴言が出た時点で上司と交代する」)
  • 悪質な場合の取引制限・法的措置の可能性

就業規則の変更は労働基準監督署への届出が必要です。改定内容と従業員への周知まで含めると、2ヶ月は最低限必要なスケジュールとご理解ください。

STEP 3(〜3ヶ月):相談窓口の設置と担当者の配置、対応マニュアル整備・DX(録音・記録)

相談窓口の設置と担当者の配置

  • 相談担当者を明確に指名し、社内に周知する(兼任でも可)
  • 相談ルートを複数用意する(直属上司・人事・外部窓口)
  • 小規模企業の場合は、顧問社労士や産業カウンセラーを外部窓口として活用する
  • クレーム対応は必ず2人以上で行う体制を整える

担当者の指名だけで終わらせず、その人が対応できるよう最低限の知識研修とロールプレイを実施しておくことも大切です。

対応マニュアル整備・DX(録音・記録)

  • 業種・場面別の対応フローを盛り込んだマニュアルを整備する
  • 通話録音・防犯カメラを設置し、来店客に周知する
  • トラブル記録を共有し、責任者が即座に状況を把握できる体制を作る
  • 記録・報告フォームを整備し、現場からの連絡ルートを明確化する

STEP 4(〜4ヶ月):従業員研修の実施(管理職・現場別)

  • 管理職向け:部下からの相談を受けた際の初動対応、部下保護の責任、組織エスカレーションの方法
  • 現場スタッフ向け:カスハラの定義・判断基準、報告の仕方、心理的安全の確保
  • ロールプレイ研修:実際に近い場面を想定し、「その場でどう動くか」を体で覚える

研修は1回で終わりにせず、半年〜1年ごとの定期実施を計画に組み込んでください。

 

就業規則に何を書けばいい?改定のポイント

盛り込むべき条文の要素

  • カスハラの定義:法律に沿った3要素を記載し、社内での共通理解を作る
  • 会社の基本方針:「カスハラから従業員を守る」という会社の姿勢を明文化する
  • 相談窓口と手続き:相談先・相談方法・秘密保持の原則を明記する
  • 会社の対応フロー:事実確認・被害者ケア・再発防止の流れを記載する
  • 悪質事案への対応:警察への通報・法的措置・取引停止の可能性を盛り込む

「正当なクレーム」との線引きの書き方

就業規則に「カスハラとは何か」を書くときに最も重要なのが、正当なクレームとの区別です。顧客が怒っているという事実だけではカスハラには該当せず、要求の内容や伝え方が社会通念上の範囲を超えているかどうかが判断基準になります。規程には「以下のような行為はカスハラに該当するものとして対応する」という形で具体例を列挙するのが実務的です。

  • 暴行・脅迫
  • 長時間の拘束
  • 土下座の強要
  • SNSへの投稿による脅し

などを例示しておくと、現場での判断がぶれにくくなります。

現場が即判断できる基準を明文化する

規程やマニュアルで最も重要なのは「現場が迷わないこと」です。たとえば——

  • 同じ内容の要求が〇回以上繰り返された場合は、上司に引き継ぐ
  • 電話で暴言が出た場合、〇回注意しても続く場合は通話を終了する
  • 来店中に暴行・脅迫があった場合は、その場で警察に通報する

このように数字や行動まで落とし込んだ基準があると、現場担当者が「自分の判断でよかった」と安心でき、対応品質も安定します。

相談窓口と担当者の配置——小さな会社でもできる体制づくり

「相談窓口を作るといっても、専任の担当者を置くほどの規模じゃない」という声は中小企業でよく聞きます。でも、体制づくりは規模よりも設計の工夫次第です。

社内窓口と外部窓口の組み合わせ

  • 第一次相談先:直属上司(上司自身が関与している場合に備え、別ルートも用意)
  • 第二次相談先:人事担当者または総務責任者
  • 外部相談先:顧問社労士・産業カウンセラー・顧問弁護士

外部窓口を使うメリットは、相談者が「会社の人に知られたくない」という心理的ハードルを下げられることです。特に小規模な職場では、外部の専門家を入れることで相談のしやすさが格段に変わります。

クレーム対応は必ず2人以上:一人対応の危険性

ハラスメントは「1対1の密室」で深刻化します。クレーム対応を現場スタッフ一人に任せることは、被害者を孤立させる行為です。「クレーム対応は必ず2人以上、または上司がリアルタイムで介入できる体制を取る」ことを明記しましょう。

ワンオペが多い業態(小売・飲食など)では、バックヤードからの音声モニタリングや、困ったサインがあったときにすぐ呼べるシステムの導入も検討してください。

相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止の周知

  • 相談内容は必要な範囲でのみ共有し、それ以外には口外しない旨を明文化する
  • 「相談したことを理由に解雇・降格・配置転換などの不利益取扱いは一切行わない」と就業規則に明記し、全員に周知する

この2点を丁寧に伝えることが、相談窓口を「機能する窓口」にする最大のカギです。

 

「やらされ対応」ではなく「職場づくりの好機」に

カスハラ対策の義務化は、単なるコンプライアンス対応ではありません。これまで声を上げられなかった従業員を守り、企業が組織として毅然と立ち向かうための法的根拠と社会的な後押しを得るチャンスです。

就業規則の改定、窓口の整備、研修の実施——どれも4ヶ月あれば十分に間に合います。大事なのは「今日から動き始める」ことです。

「何から手をつければいいかわからない」「自社の規程が義務に適合しているか不安」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

法改正に対応した社内規程の整備から、相談窓口の設計、研修プログラムの提供まで、貴社の状況に合わせてサポートいたします。

カスタマーハラスメントに関するよくある質問

Q1. どこからがカスハラになるのでしょうか?

カスハラは、単に「お客様が怒っている」というだけでは成立しません。

厚生労働省は、「要求内容」、「手段や態様」の両面から、「社会通念上許容される範囲を超えているか」を総合的に判断するとしています。

たとえば、

  • 長時間の拘束
  • 土下座要求
  • 暴言
  • SNSへの晒し行為
  • 無断撮影を続ける行為

などは、典型的なカスハラに該当し得ます。

Q3. 正当なクレームとの違いは何ですか?

商品やサービスに問題があり、改善を求めること自体は正当なクレームです。

一方で、

  • 要求内容が過剰
  • 暴言や脅迫を伴う
  • 長時間繰り返される
  • 従業員個人を攻撃する

など、「伝え方」や「態様」が社会通念上の範囲を超える場合はカスハラに該当する可能性があります。

Q4. 会社は録音・録画をしても問題ありませんか?

可能です。
厚生労働省も、録音・録画は有効な対策例として示しています。ただし、

  • 利用目的の公表
  • プライバシーポリシー整備
  • 防犯カメラ設置の周知

など、個人情報保護法への配慮が必要です。

Q5. カスハラ専用の規程を新しく作る必要がありますか?

必須ではありません。

厚生労働省も、

  • 服務規律
  • 信用失墜行為
  • ハラスメント規程

などの既存規定で対応可能な場合、新たな規程を必ず作る必要はないとしています。

厚生労働省HPのQA:ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について

 

【ハラスメントに関する関連記事】

カスハラ・就活ハラ防止が“義務化”へ!事業主がやるべき対策とは?

 

法施行直前で慌てないためにも、今のうちから自社の体制を見直していきましょう。
カスハラ対策に関するご相談は、こちらからお気軽にお問い合わせください。