時間外労働の上限規制が、大企業は2019年4月から、中小企業でも2020年4月から適用されています。
法律上、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができません。
この記事では、原則である時間外・休日労働の限度時間(月45時間・年360時間)の範囲内で勤務させる場合に必要な36協定届の書き方について解説します。
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1.36協定新様式の種類
36協定の新様式は7種類あり、厚生労働省が提示している以下の表でまとめられています。一般企業の多くが36協定の申請に用いるのは、赤で囲った2つの様式(様式第9号と様式第9号の2)です。
時間外・休日労働の限度時間(月45時間、年360時間)の範囲内で勤務させる場合は一般条項である様式第9号を用います。
限度時間(月45時間、年360時間)を超えて働かせる場合、つまり特別条項付きの36協定も結ぶ必要がある場合は、特別条項である様式第9号の2を用います。1ページ目に「一般条項」、2ページ目に「特別条項」の順で2つの様式が出てくるので、いずれも記載します。

出典(PDF資料):厚生労働省|時間外労働の上限規制:わかりやすい解説
その他、建設業や運送、医師などの業職種、あるいは新技術・新商品の研究開発に該当する場合、様式第9号の3以降を使ってください。
2.36協定の書き方
新様式の36協定届の記入例を、一般条項の「様式第9号」についてご紹介します。
一般条項|様式第9号

厚生労働省が公表している記載例を参考に1つ1つ項目を説明していきます。
「労働保険番号」「法人番号」

まずは労働保険番号と法人番号について説明します。
『労働保険番号』
労働保険番号とは、事業所が労働保険に加入した際に労働基準監督署から交付される14桁の番号です。
労働保険番号は、労災保険に加入すると発行されます。「労働保険の概算保険料・確定保険料申告書」で確認ができます。
『法人番号』
法人番号とは、国税庁が法人に対して発行する12桁と1桁をあわせた13桁の番号です。
国税庁の法人番号公表サイトで検索できます。
「事業の種類」「事業の名称」

『事業の種類』
36協定の「事業の種類」欄には、当該事業場の業種を記載します。
記入例では明確な説明はありませんが、例えば記入例の「金属製品製造業」といった表記は、日本標準産業分類の中分類に対応したものです。
実務上、経済産業省やハローワーク等への各種届出においても、業種は日本標準産業分類に基づいて記載することが求められていることから、36協定においても日本標準産業分類を参考に記載するのが適切といえます。
例)「不動産取引業」「飲食料品小売業」「飲食店」
また、過去に中小企業に対する時間外労働の上限規制の適用猶予(1年間)が設けられていた際には、業種区分の判断も日本標準産業分類に基づいて行われていました(現在は猶予措置は終了しています)。
日本標準産業分類を確認する際は、政府統計の総合窓口であるe-Statの分類検索システムを利用すると便利です。
また、この分類は総務省が所管している「日本標準産業分類」に基づいています。
『事業の名称』
36協定は会社単位で締結するのではなく、原則として事業場ごとに締結する必要があります。
36協定を締結する支店や営業所名を記入します。
例)「〇〇(株)○○支店」「〇〇(株)○○工場」など
複数の事業場がある企業は事業場ごとに書類を作成して、事業場ごとに労働基準監督署長に書類を提出する必要があります。
「有効期間」「起算日」

『有効期間』
36協定の「有効期間」欄には、この協定が効力を持つ期間を記載します。
36協定の有効期間は、原則として1年間とします。
記載例としては、次のようになります。
令和○年○月○日から令和○年○月○日まで
または
令和○年○月○日より1年間
有効期間とは、協定そのものが効力を有する期間をいいますが、そもそも法第36条では、時間外労働・休日労働をさせることができる期間である「対象期間」が1年間に限られています。そのため、有効期間もこれに合わせて、原則として1年間とするのが実務上適切です。
また、時間外労働協定は定期的に見直す必要があることからも、有効期間は1年間とすることが望ましいとされています。
つまり、36協定の有効期間は、1年超でも1年未満でもなく、「1年」と考えるのが実務上わかりやすい整理です。
『起算日』
36協定では、時間外労働の上限規制を「1年間」で管理するため、この起算日を基準に1年間の時間外労働時間を集計します。
通常、36協定の有効期間は1年間とするため、起算日と有効期間の開始日は同じ日に設定されることが多いのが実務です。
もっとも、起算日と有効期間の開始日を異なる日付とすることも可能です。
ただし、その場合は、
- 協定の有効期間としての「1年間」
- 時間外労働の上限を管理するための「1年間」
という2つの期間を別々に管理する必要が生じます。
このため、実務上は管理の簡便さを考慮し、起算日と有効期間の開始日を一致させることが望ましいとされています。
「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」「業務の種類」「労働者数」

『時間外労働をさせる必要のある具体的事由』
使用者が時間外労働を命令しなければならない必要性に関して、業務の種類別に、具体的な理由を記載しなければなりません。
例)「臨時の受注、納期変更」「月末の決算事務」「顧客からの緊急の要請」「受注・請求・集金・営業等の繁忙」など
「使用者の判断による」など、抽象的な表現は認められません。
『業務の種類』
時間外労働させる業務を具体的に記入します。
例)「事務」「経理」「営業」「機械組立」「製品管理」「外勤販売」など
また、健康上特に有害な業務については、その業務を他の業務と区別して記入しましょう。
『労働者数(満18歳以上の者)』
残業をする可能性がある従業員数を書きます。
アルバイトやパートも残業する場合は人数に入れます。
(満18歳以上の者)とあるのは、未成年者(満18歳未満の者)には法第36条が適用されない(=残業させられない)からです。
なお、この「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」から「法定労働時間を超える時間数(1年)」までの項目は上下段に分かれており、上段は一般労働者、下段は対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働制の対象者について記載します。
上段の「下記②に該当しない労働者」とは、1年単位の変形労働時間制以外で働く人という意味です。
「1年単位の変形労働時間制により労働する労働者」
1年単位の変形労働時間制(3ヵ月超~1年の変形労働)を適用している労働者は②の段に記入します。3ヵ月を超える1年単位の変形労働時間制と書かれていれば下段の②に、それ以外は上段の①に記入します。
3ヵ月以内で1年単位の変形労働時間制を設定する場合は①です。
具体的事由と種類は①と同じです。
所定労働時間(1日)

会社が定める1日の所定労働時間を「7.5時間」のように記入します。
所定労働時間とは、法定労働時間の範囲内において、会社と労働者との契約で定められた労働時間のことです。
なお、所定労働時間の記入は任意のため、書かなくても問題ありません。
「1日の法定労働時間を超える時間数」「1日の所定労働時間を超える時間数」

『1日の法定労働時間を超える時間数』
「8時間を超える時間数を書いてください」(法定休日出勤の時間は含みません)
なお、1日の時間に法的な上限はありませんが、実務上は過度な長時間とならないよう配慮が必要です。
『1日の所定労働時間を超える時間数』(任意)
所定労働時間とは、「会社が決めている労働時間」です。
必ず書かなければならないものではなく記載がなくても問題ありません。
「1ヵ月の法定労働時間を超える時間数」「1ヵ月の所定労働時間を超える時間数」

『1か月の法定労働時間を超える時間数』
法律上、1か月の時間外労働(残業時間)の上限は「45時間」です。
これを超える場合は、「特別条項付き36協定」の締結が必要となります。
なお、この時間には法定休日労働の時間は含まれません。
また、「②1年単位の変形労働時間制」という働き方をしている会社では、1か月の時間外労働(残業時間)の上限は42時間までになります。
『1か月の所定労働時間を超える時間数』(任意)
所定労働時間とは、「会社が決めている労働時間」です。
所定労働時間を超える時間数の記入は任意です。
1日の所定労働時間が8時間より短い会社(例:7時間30分)の場合は、
- 所定労働時間を超えた時間(例:7時間30分以降)
- 法定労働時間(1日8時間)を超えた時間
を分けて考えます。
このうち、7時間30分〜8時間までの時間は「会社の時間は超えているが、法律上の残業ではない時間」です。
そのため、この時間は45時間(または42時間)の上限とは別にカウントされ、この欄では45時間(42時間)を超えて記載することができます。
■ 例
- 1日の所定労働時間:7時間30分
- 1か月の勤務日数:20日
- → 1日30分 × 20日 = 10時間
法律上の残業の上限:45時間
所定労働時間を超えた時間:10時間
合計で、55時間(45時間+10時間)まで記載できます。
ポイント:「会社のルール」と「法律のルール」は別で考えると理解しやすくなります。
「1年の法定労働時間を超える時間数」「1年の所定労働時間を超える時間数」

『1年の法定労働時間を超える時間数』
法律では、1年の残業時間は「360時間」が限度となっています。
360時間を超える場合は特別条項が必要です。
また、下の段の「②1年単位の変形労働時間制」を適用している場合は「320時間」が限度時間になります。
1年間の上限時間を管理するために、前述したように起算日を設定する必要があります。
『1年の所定労働時間を超える時間数』(任意)
1日の所定労働時間が8時間より短い会社(例:7時間30分)の場合は、
その差分の時間については、すでに説明したとおり、法律上の残業とは別に扱われます。
そのため、この時間は年間の上限である360時間(または320時間)とは別にカウントされ、この欄では360時間(320時間)を超えて記入することができます。
ポイント:月と同じ考え方で、「年でも別にカウントする」と覚えると分かりやすいです。
「休日労働させる必要がある具体的事由」「業務の種類」「労働者数」

時間外と同様に、「具体的な休日労働の理由」「業務の種類」「労働者数」を記入します。
「所定休日」「労働させることができる法定休日数」「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」

『所定休日』(任意)
「所定休日」とは、会社があらかじめ決めている休みの日のことです。
どの日が休みかは、会社のルール(就業規則)に書かれていますので、それを確認して記入します。
たとえば、完全週休2日制の会社であれば、「土日祝」としている会社が多いです。
『労働させることができる法定休日数』
「法定休日」とは、法律で必ず与えなければならない休みのことで、
「週に1日」または「4週間で4日」の休みをいいます。
たとえば、土日が休みの会社の場合は、
- 日曜日 → 法定休日(法律で決まった休み)
- 土曜日 → 法定外休日(会社が決めた休み)
という分け方になります。
このため、「法定休日に働かせることができる日数」は、
最大でも1か月に4日までとなります。
ただし、単純に「4日」と書くのではなく、実際の業務に合わせて、無理のない日数を記入することが大切です。
※ 法定休日は、会社のルール(就業規則)に書かれています。
もし法定休日がはっきり決まっていない場合で、日曜日から土曜日までの1週間の中で土日両方に働いたときは、後にくる土曜日の労働が「法定休日労働」として扱われます。
日曜日を法定休日としたい場合は就業規則に明記しましょう。
また、休日に働かせた場合の賃金にも違いがあります。
法定休日に働かせた場合
→ 35%以上の割増賃金(3割5分以上)が必要
法定外休日に働かせた場合(時間外労働として扱う)
→ 25%以上の割増賃金(2割5分以上)でOK
ポイント:「法定休日」と「法定外休日」は、休みの種類も給料の計算も違うので、しっかり分けて考えることが大切です。
『労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻』
ここには、法定休日に出勤した場合の働く時間帯を書きます。
記入例では通常の勤務時間(定時)が書かれていることが多いですが、実務では、実際に起こりうる最大の勤務時間を書いておくと安心です。
たとえば、トラブル対応なども考えて、「8:30~24:00」のように広めに設定しておくことも可能です。
ポイント:「普段の勤務時間」ではなく、「いざというときの最大の働き方」を想定して書くと実務に合います。
「協定の成立日」「労働者代表の署名・押印」「選出方法」

『協定の成立日』
会社と従業員の代表が話し合って、36協定が正式に決まった日のことです。
この日には、実際に合意した日付を書きます。
36協定は、
先に協定を結ぶ → そのあとに労働基準監督署へ提出する
という流れになります。
そのため、成立日は提出日より前の日付になります。
また、まだ決まっていない未来の日付を書くことはできません。
『労働者代表の署名・押印』
36協定は、会社と従業員の代表が合意して作るものです。
そのため、従業員側の代表者の名前を書く必要があります。
書く内容は次のどちらかです。
- 過半数労働組合がある場合 → その組合の名前
- 労働組合がない場合 → 従業員の過半数を代表する人の職名と氏名
また、36協定届をそのまま「協定書」として使う場合は、従業員代表の署名(自筆)または記名・押印が必要です。
『選出方法』
従業員代表を選んだ方法も記入します。
「投票による選挙」、「挙手(手を挙げて決める方法)」など、公平に選ばれたことが分かる方法を書く必要があります。
一方で、管理職からの指名、会社が勝手に決めた場合のような方法は、正しい選び方として認められません。
ポイント:「従業員の代表は、会社ではなく“従業員側で公平に選ぶ”ことが大切です。
チェックボックス

チェックボックスには必ずチェックを入れてください。チェックボックスは3か所あります。チェックを入れないと作成した36協定は認められません。
3.まとめ
36協定は、従業員に残業をさせる会社が必ず作らなければならない大切なルールです。
この協定で決めた時間を守らずに働かせてしまうと、法律違反となり、罰則を受ける可能性もあります。
そのため、会社の実態に合った、無理のない時間をしっかり考えて設定することが大切です。
- 36協定の作成・チェック
- 上限規制対応
- 労務管理体制の見直し
などについてお悩みの方は、久野事務所までお気軽にご相談ください。
実務に即した形で、“運用できる36協定”の整備をサポートいたします。
