法定四帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・年次有給休暇管理簿)は、従業員を雇用する企業に義務付けられている重要な帳簿です
従業員を一人でも雇用している企業には、法律で作成・保存が義務付けられている帳簿があります。かつては「法定三帳簿」と呼ばれていましたが、現在は「法定四帳簿」として管理することが常識となっています。
「うちは少人数だから」「Excelでなんとなく管理しているから大丈夫」と思っていませんか?実は、労働基準監督署の調査(臨検)で最も厳しくチェックされるのがこの帳簿類です。
今回は、2019年の法改正以降の変更点から、実務上の注意点を徹底解説します。
1.法定三帳簿 → 四帳簿へ:2019年改正で何が変わった?
従来、労働基準法で義務付けられている帳簿は以下の3つでした。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
これがいわゆる「法定三帳簿」です。
しかし、2019年4月の働き方改革関連法により、年次有給休暇管理簿の作成が義務化されました。
これにより実務上は、「法定四帳簿」としての管理が必要となっています。
なぜ有給管理簿が追加されたのか
背景にあるのは、日本の有給休暇取得率の低さです。国は「年5日の有休取得」を企業に義務付けるとともに、それを確実に実行させるための「証拠」として管理簿の作成を命じました。これにより、企業は「誰が、いつ、何日休んだか」を常に把握しておく責任が生じたのです。
企業は、「年10日以上の有給休暇が付与される労働者」に対して「年5日の有給休暇を確実に取得させる義務」を負います。
この義務を履行しているかを確認するために、
有給休暇の取得状況を客観的に管理する帳簿=「年次有給休暇管理簿」が必要になりました。
つまり、
- 有給を取らせる義務
- 取らせた証拠を残す義務
この2つがセットになったということです。
2.法定四帳簿とは?──4つの帳簿の役割を一覧で理解する
①労働者名簿・②賃金台帳・③出勤簿・④年次有給休暇管理簿の比較表
4つの帳簿は、それぞれ異なる法的根拠を持ち、記録する内容も目的も異なります。以下の比較表で一気に整理しましょう。
| 帳簿名 | 法的根拠 | 主な必須記載事項 | 保存期間の起算日 |
| ①労働者名簿 | 労働基準法 第107条 | 氏名・生年月日・性別・住所・履歴・業務種類・雇入れ年月日・退職年月日と理由 | 退職・死亡した日 |
| ②賃金台帳 | 労働基準法 第108条 | 氏名・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・残業/休日/深夜時間数・賃金額・控除額 | 最後の記入日 |
| ③出勤簿 | 労働基準法 第109条(重要書類) | 始業・終業時刻・労働時間数・休日・遅刻早退・時間外労働 | 最後の記入日 |
| ④年次有給休暇管理簿 | 労働基準法施行規則 第24条の7 | 有給付与日・基準日・取得した日付と日数・残日数 | 最後の記入日から3年(有休分) |
どの法律で義務付けられているか(根拠条文の早見)
労働者名簿・賃金台帳は、労働基準法第107条・第108条で直接規定されており、違反した場合は30万円以下の罰金(労基法第120条)が科される可能性があります。
出勤簿は、労働基準法に直接の規定こそありませんが、同法第109条に定められる「賃金その他労働関係に関する重要な書類」として保存が義務付けられています。
年次有給休暇管理簿は、労働基準法施行規則第24条の7で規定されており、罰金規定はありませんが施行規則違反として行政指導の対象です。
3.各帳簿の必須記載事項と保存期間──抜けると即アウトの項目
労働者名簿:入社時に一人1枚、変更のたびに更新が必要
労働者名簿は、雇い入れた労働者ごとに1枚作成する書類です。日雇い労働者は対象外ですが、正社員・パート・アルバイトを問わず、継続して雇用するすべての労働者分を用意する必要があります。
必須記載事項は以下のとおりです。
- 氏名(フリガナ)
- 生年月日
- 性別
- 住所
- 履歴(学歴・職歴など)
- 従事する業務の種類(常時30人未満の事業場は記載不要)
- 雇入れ年月日
- 退職年月日及びその理由(解雇の場合はその理由も記載)
- 死亡年月日及びその原因
住所変更・業務変更などがあった際はその都度更新が必要です。「入社時に作ってそのまま」という管理は不備となります。
法で定められた必須記載事項の他に、会社が任意の事項を記載することも可能です。任意記載事項は、連絡先となる電話番号や、社会保険に関する事項などを記載することが多くなっています。
作成例:労働者名簿
賃金台帳:給与支払いのたびに記入、残業時間の記載漏れに注意
賃金台帳は、給与を支払うたびに遅滞なく記入することが義務付けられています。給与計算を外部に委託している場合でも、台帳の原本は自社で保管しなければなりません。
必須記載事項(主なもの)は以下です。
- 氏名・性別
- 賃金計算期間
- 労働日数・労働時間数
- 時間外労働時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数
- 基本給・各種手当など賃金の種類ごとの金額
- 控除項目とその金額
特に見落とされやすいのが「時間外・休日・深夜の労働時間数」の記載です。給与ソフトで金額は計算しているものの、時間数の欄が空欄になっているケースが見られます。
作成例:賃金台帳(Excel)
記入例:賃金台帳記入例(PDF)
出勤簿:「客観的な記録」でなければ認められないケースも
出勤簿は、各労働者の始業・終業時刻・休憩時間・休日・欠勤・遅刻・早退などを記録するものです。
出勤簿に記載すべき事項は法律の規定はありませんが、次の事項を記載するとよいでしょう。
- 出勤日及び労働日数
- 始業・終業の時刻及び休憩時間
- 日別の労働時間数
- 時間外労働を行った日付、時刻、時間数
- 休日労働を行った日付、時刻、時間数
タイムカード・ICカード・勤怠管理システムのログなど、形式は問いません。
ただし、厚生労働省のガイドライン(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)では、労働時間の把握は「使用者が自ら現認」か「客観的な記録を基礎とする」ことが原則とされています。
手書きの自己申告のみで出勤簿を作成している場合、「客観的な記録」として認められないリスクがあります。タイムカードや勤怠管理システムとの併用を強くお勧めします。
年次有給休暇管理簿:年10日以上付与の社員全員が対象
年次有給休暇管理簿は、年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者を対象に、労働者ごとに作成します。フルタイムの正社員だけでなく、勤続年数や所定労働日数によっては、パートタイム労働者も対象に含まれます。
必須記載事項は以下の3つです。
- 有給休暇の基準日(付与された日)
- 付与された有給休暇の日数
- 取得した有給休暇の日付と日数
様式は自由です。ExcelやGoogleスプレッドシートで自作しても、市販の勤怠管理システムを利用しても問題ありません。大切なのは、毎年確実に作成・更新していることです。
福井労働局、山口労働局のホームページに年次有給休暇の管理台帳がアップされています。
作成例:(福井労働局参考様式)年次有給休暇の管理台帳(Excel)
記入例:(福井労働局参考様式)年次有給休暇の管理台帳(記載例)(PDF)
作成例:年次有給休暇管理簿(Excel)
4.保存期間は「3年」ではなく「5年」──経過措置に甘えていると危ない理由
原則5年・当面3年の経過措置とは?2020年改正の正確な理解
2020年4月施行の改正労働基準法第109条により、法定帳簿の保存期間は5年に延長されました。ただし、現在は「当分の間3年でよい」という経過措置が設けられています。
この経過措置は「3年でいい」というお墨付きではなく、あくまで移行期間です。退職金請求の時効が5年であること(労基法第115条)を考えると、将来的なトラブルを避けるためにも、今から5年保存を前提とした運用を始めておくことが賢明です。
帳簿ごとに違う「起算日」──退職時に捨ててはいけない
保存期間の起算日は帳簿によって異なるため注意が必要です。
- 労働者名簿:労働者が退職・死亡した日
- 賃金台帳:最後の記入をした日
- 出勤簿:最後の記入をした日
- 年次有給休暇管理簿:最後の記入をした日(有休の時効は2年のため実質3年保存)
よくある間違いが、従業員の退職時に「もう必要ない」と判断して帳簿を廃棄してしまうケースです。退職してもその日から起算した保存期間が満了するまでは、確実に保管しておく必要があります。
賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねる場合は7年保存
企業において賃金台帳と源泉徴収簿を兼ねている場合、賃金台帳は7年間保存する必要があります。なぜなら、源泉徴収簿は「その申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要がある」ためです。源泉徴収簿と兼ねている場合は、保存期間が5年から7年に延びると覚えておきましょう。
5.労働基準監督署の臨検でチェックされるのが法定四帳簿
労働基準監督官は、労働基準法第101条に基づき、事業場への立入調査(臨検)を行う権限を持っています。臨検では帳簿・書類の提出を求められますが、その際に最初に確認されるのが法定四帳簿です。
提出を拒否した場合や虚偽の記載が発覚した場合は、それ自体が処罰の対象となります。日頃から正確に整備しておくことが最大のリスク管理です。
罰則:30万円以下の罰金と社会的信用の失墜
労働者名簿・賃金台帳の不備、および出勤簿の保存義務違反は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。金額だけ見ると軽く感じるかもしれませんが、是正勧告・違反公表といった社会的ダメージも無視できません。
近年は労働問題に関する情報公開が進んでおり、SNSでの拡散や求人への影響も現実的なリスクとして意識しておく必要があります。
6.手書き・Excelからの脱却──クラウド勤怠管理システムで一元管理する
「客観的な記録」として認められないリスク
手書きの出勤簿や自己申告ベースのExcel管理は、「客観的な労働時間の記録」として認められないリスクがあります。特に残業代トラブルや未払い賃金の訴訟が生じた際に、手書き記録だけでは使用者側の証拠能力が弱くなります。
クラウドシステムで自動連携できる帳簿とミス防止のポイント
上記でExcelno作成例を示しましたが、クラウド型の勤怠管理・人事労務システムを導入すると、以下のようなメリットが得られます。
- 出勤簿(客観的な打刻記録)と賃金台帳が自動で連携され、手入力ミスを防止
- 年次有給休暇管理簿が自動で生成・更新され、取得状況をリアルタイムで把握
- 労働者名簿の変更も社員情報の更新と連動して管理
- 帳簿データをクラウドで保存・バックアップでき、紛失リスクがゼロに
- 監督署調査時にすぐデータを出力・提出できる
人事労務に割けるリソースが少ない中小企業ほど、システムによる自動化の恩恵が大きくなります。
電子保存はOK?ペーパーレス化の注意点
法定四帳簿は、紙・電子データのいずれでも保存可能です。Excel・クラウドシステム・PDFなど、フォーマットの指定はありません。ただし、必要事項が正確に記載されていることと、行政機関から求められた際にすみやかに提出できる状態であることが条件です。
ペーパーレス化を進める際は、データの真正性確保(誰が・いつ・何を変更したかの履歴)にも気を配りましょう。
まとめ:法定四帳簿は「揃えて終わり」ではなく「常に正確に」が原則
法定四帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・年次有給休暇管理簿)は、労働基準法に基づく企業の基本的な義務です。作成するだけでなく、正確な内容で継続的に更新し、定められた期間保存することが求められます。
今すぐできる3つのチェックポイント
まず以下の3点を確認してみてください。
- 【帳簿の種類】年次有給休暇管理簿を含む4つの帳簿すべてを作成・運用しているか
- 【記載内容】賃金台帳の残業時間数、出勤簿の始業・終業時刻など、必須記載事項に漏れがないか
- 【保存状況】退職者の帳簿も含め、適切な起算日から3年(将来的には5年)保存されているか
法定四帳簿に関するFAQ
Q1. 法定四帳簿とは何ですか?
A. 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・年次有給休暇管理簿の4つを指し、労務管理の基本となる帳簿です。
Q2. 法定三帳簿との違いは何ですか?
A. 従来の三帳簿に「年次有給休暇管理簿」が追加され、実務上は四帳簿として管理が必要になっています。
Q3. 法定四帳簿はすべての会社に必要ですか?
A. はい、従業員を1人でも雇用していれば原則として必要です。
Q4. 紙で作らないといけませんか?
A. いいえ、電子データ(Excel・勤怠システム等)でも問題ありません。
Q5. フォーマットは決まっていますか?
A. 法定様式はありませんが、必要事項の記載は必須です。
Q6. 給与明細があれば賃金台帳は必要ない?
A. 給与明細は税法上の交付義務、賃金台帳は労基法上の保存義務であり、どちらも別物として必要です。
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